2023年3月 作成

仙台市で「共創共生」のオフィスビル
いつのときも地域を照らす施設に

2022年3月、宮城県仙台市太白区に、複合型オフィスビル「仙台長町未来共創センター」が竣工した。開発コンセプトは「平時と非常時で機能が変わるリバーシブル・ビル」。東日本大震災からの復旧を進めるなかで生まれた「地域に必要とされる施設」の想いを体現したプロジェクトであり、「産・官・学」による災害支援協定が締結されたプロジェクトでもある。ここでは、同施設を開発するに至った経緯や、竣工までの軌跡を振り返る。

地上5階建て、延床面積約2,864m の「仙台長町未来共創センター」。平常時はF&Pをはじめ、テナント企業や保育施設が入居するオフィスビルとして活用される。非常時は、帰宅困難者を受け入れる一時滞在施設として活用される。また、東京で大災害が発生することに備えたF&PのBCP拠点としての役割も担う。備蓄食糧はF&P社員200名分を備えており、仙台での災害時には無料で帰宅困難者に配布される。

震災復旧活動で痛感した「電気」の重要性

東北各地に壊滅的な被害をもたらした、2011年3月11日の東日本大震災。フクダ・アンド・パートナーズ(以下、F&P)が手掛けた物流施設や、取引のある顧客の物流施設も甚大な被害を受けた。交通機関が麻痺するなか、F&Pの代表、福田は東京本社から様々なルートを駆使して応援部隊を現地へ派遣。取引実績の有無に関係なく、依頼があれば物流施設の復旧作業に全力を尽くし、合計の施設を復旧した。
当時を振り返るなかで福田は、「一番感じたのは電気の重要性だった」と語る。電気がなければ自動倉庫やソーターが動かず、棚から商品をピッキングするにも暗くてわからない。少しの作業だけでも時間がかかっていた。それでも、多くの人に支えられて自家発電装置や分電盤を探し出し、壊れた棚や商品の片づけ、ごみの撤去など地道な作業を着実にこなし、施設の稼働に向けた道筋をつけていった。そして遂に、復旧した食品物流施設から食糧品が出荷され、スーパーやコンビニの棚にパンやおにぎりが並んだ光景を目の当たりにしたときには、「本当に涙が出た」と福田は述懐する。同時に、「物流施設は人々の生活を守る生活インフラであり、災害時には人々の命を守るライフラインになることを心に強く刻んだ」とも述べている。

地域貢献事業として想い描いた「防災型ビル」の開発

震災発生直後から物流施設の復旧活動に邁進したF&Pには、現地の多くの顧客から感謝の気持ちが伝えられた。それでも福田は、「もっと多くの人に役立つことはできなかったか」と常に思いを巡らせていた。そうしたなか、仙台市太白区長町エリアで土地を購入する「縁」に恵まれた。福田は「この土地を活用して社会に貢献する事業を行う」と決断し、仙台市各局、太白区、地域のキーマンに「地域に必要な施設とは何か」と聞いて回った。そして、東日本大震災の経験から福田が想い描いていた「防災型ビル」の構想について、3PL物流とBCP物流に強みのある丸和運輸機関の代表、和佐見社長に相談した。和佐見社長からは「ぜひ協力したい」との言葉をいただき、東北大学災害科学国際研究所の丸谷教授を紹介していただいた。BCPの観点を取り入れた防災型ビルの開発に向けてF&P社員を同研究所に送り込み、会社全体で防災とBCPに関する知見やノウハウの習得に努め、そこで得た学びを具体的計画に活かした。
そうして2022年3月、「平常時は人や企業と共に未来を創る『共創』の場、非常時は地域の人々の生活を守る『共生』の場にしたい」という福田の想いを形にした「仙台長町未来共創センター」が遂に完成した。

「産・官・学」連携の実践そして地域に愛される施設へ

平常時は、「共創」の観点から企業向けオフィスビルの用途と、SDGsの発信基地、東日本大震災の伝承といった用途で機能する。また、電力については太陽光発電による電気と、別途調達する再エネ100%電力を活用することによって、ビル自体が脱炭素化に貢献すると同時に、テナント企業も脱炭素化へ貢献できる施設となっている。
一方、非常時には「共生」の観点から、長町エリアの帰宅困難者を受け入れる避難施設となる。さらに、帰宅困難者やテナント企業、地域を守る「明かりの消えない施設」であることを実現した。まずは時間連続稼働可能な非常用発電機の設置。発電機が故障したときには太陽光発電による蓄電に加え、電気自動車からの給電を行うことで施設への電力供給が途絶えないようにした。いつのときも明かりが消えないための「3次バックアップシステム」である。
これらの機能を実装した同ビルには、産・官・学が連携して積み上げてきた知見や経験を、実装し実践する施設としての期待が寄せられ、F&Pと仙台市、東北大学災害科学国際研究所、同ビルに入居し「運ぶ力」を提供してくれる丸和運輸機関の4者間にて「企業防災等の推進に関する協定」が結ばれた。
震災から11年が経ち、「F&Pができる社会貢献」を真剣に考え続けてきた福田の想いと行動が「縁」を呼び寄せ、災害時には地域の「ライフライン」となるビルが完成。福田は、「多くの縁に感謝しています。今後、地域に愛される施設になれるよう社員一同努力していきます」と力強く語っている。